はじめにご紹介するのは、川崎能楽堂。重要無形文化財各個認定保持者（人間国宝）である狂言師・山本東次郎氏が出演される「狂言全集」が上演されるという貴重な日にお邪魔しました。

能楽とは歌舞劇である「能」と、喜劇である「狂言」の総称。能は神や亡霊などが登場する幻想的な物語が多く、役者は能面（仮面）をつけ、謡（うたい）や囃子（はやし）に合わせて演じます。一方の狂言は、市井の人々の日常的な出来事を題材にしたものが大半。風刺と笑いに満ちた会話劇です。

川崎能楽堂の最大の特長は、能舞台と客席との距離が近く、間近で鑑賞できること。5.5メートル四方の能舞台を、三方から148席の客席が囲みます。舞台背景となる鏡板には川崎市に居を構えていた日本画家・結城天童氏による「松」が描かれています。

役者さんの息遣いまで感じられそうな近さです！

いよいよ幕開けです。第1幕「萩大名」では山本東次郎氏が大名役として出演。訴訟のため長く都に逗留している大名は気分転換に今が盛りの萩の花を見物に出掛けます。けれども萩の庭主は客人に自作の和歌を所望するのが決まり、風流事の苦手な大名が恥をかかぬよう、召使いの太郎冠者はあらかじめ作られた和歌を覚えてもらおうとするのですが、なかなか覚えられません。主従が悪戦苦闘するさまが微笑ましい狂言です。

はじめての狂言鑑賞に少し緊張気味のホテルスタッフでしたが、役者さんのコミカルな動きと会場の笑い声に少しずつリラックスしていった様子。

その後、演目は「右近左近」「禰宜山伏」と続き、最後は山本東次郎氏による演目の解説と小舞で締めくくり。舞台の裏側も垣間見られる、ぜいたくなひとときとなりました。

ちなみに「音楽のまち・かわさき」のマスコットキャラクター・かわさきミュートン、川崎能楽堂では和装姿でお出迎えしてくれます！

お次は江戸の庶民文化を彩った浮世絵の世界へ。川崎浮世絵ギャラリーでは6,000点もの“斎藤文夫コレクション”から季節ごとに企画展を行っています。浮世絵には美人画や役者絵、風景画など多様なジャンルがあり、時代や絵師もさまざまですが、それらを広く網羅していること、川崎や横浜など神奈川県にゆかりのある作品が多いのが同コレクションの特長です。

チケットカウンター前に展示されているのは、歌川広重「東海道五拾三次之内 川崎 六郷渡舟」の複製パネル。旅人たちが船で六郷川（現・多摩川）を渡り、川崎宿を目指す様子が描かれています。右手には富士山の姿も。

ギャラリー入口には葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏（左）」、「富嶽三十六景 凱風快晴（右）」の“復刻版浮世絵版画”が展示。各種36,300円（※額縁と額装用マット付）で販売されています。

……著作権の関係上、撮影は残念ながらここまで。

企画展は、ジャンルごと、絵師ごと、江戸風俗やファッション、グルメなどテーマ性のあるもの、東海道五十三次など揃物といった内容を、年間を通じてバランスよく組み立てているのだそう。いつ訪れても新鮮味が感じられそうです。

そのほか、章立てにしてストーリー性を持たせたり、コラム解説を入れるなど存分に堪能できる工夫がいっぱい。浮世絵通も、初心者も、ぜひ足を運んで選りすぐりの浮世絵に触れてみてください！

ここでちょっとブレイク。ホテルスタッフおすすめのグルメスポット「モナリザン」をご紹介します。川崎の街にイタリアンを根づかせた1955年創業の老舗店です。どこか懐かしい、あたたかな味わいに出会えます。

チョイスしたのは人気No.1の「キャセロール・スパゲティ（1,480円／手前）」、きのこをふんだんに使った白いピザ「ブンギ・ビアンカ（1,780円／左奥）」、スペイン・カタルーニャ地方発祥の伝統的デザート「焼きカタラーナ（650円／右奥）」の3品。

「キャセロール・スパゲティ」は、モナリザンオリジナルのグラタン風スパゲティ。1皿で2種類の味わいが楽しめる贅沢なメニューです。トマトのクリームソースが麺にしっかりと絡んでいて食べ応えも充分。グラタン皿からアツアツのまま食べられるのも嬉しい！

「ブンギ・ビアンカ」には2種類のチェダーチーズを使用。濃厚な味わいのチーズが、きのこの旨味を存分に引き出しています。

こちらは……完成前の「焼カタラーナ」。カスタードの表面に砂糖がまぶしてあります。

仕上げに、焼きごてで焼き目をつけて

完成！パリパリのキャラメリゼと濃厚なカスタードのバランスが絶妙の逸品です。
ちなみに、焼きごてのテーブルパフォーマンスが提供されるかどうかは、日によってまちまちだそう。もし見られたら「かなりラッキー」だそうです！

最後にご案内するのは、当ホテルに隣接するミューザ川崎シンフォニーホール。「音楽のまち・かわさき」を象徴する、世界水準の音響に定評のあるコンサートホールです。東京交響楽団の本拠地としても知られ、国内外で活躍する多くの音楽家たちに愛されています。

この日の公演は「J. S. バッハオルガン小曲集プロジェクト I」。J.S.バッハの未完のコラール曲集「オルガン小曲集」。当初予定していた全164曲を仕上げるため、現代のオルガニストや作曲家が補完する最前線のプロジェクトだそう。記念すべき第1回は、第1巻、第3巻、第4巻の計87曲が演奏されました。

「J. S. バッハオルガン小曲集プロジェクト I」の主役は正面に設置されたパイプオルガン。スイスの名門オルガンビルダーであるクーン社製で、日本最大級・5,248本のパイプ数を誇ります。壮大でモダンなデザインとオーケストラのように多彩に変化する音色が特長です。

公演では、メインコンソール（主演奏台）だけでなく、舞台上のリモートコンソール（移動演奏台）でも演奏。

世界的指揮者のサー・サイモン・ラトル氏に「世界最高のホールのひとつ」と絶賛される音楽ホールは、1,997席のスパイラル構造の客席がステージを360度取り囲むヴィンヤード（段々畑）形式。

1階席から見ると、客席が非対称になっているのがわかります。

さぁ、いよいよ開演です！

幻想的なライトアップのなかで次々と奏でられる楽曲に、ただただ圧巻。約5時間にわたってオルガン曲が演奏されるのは、20年以上の歴史をもつミューザ川崎シンフォニーホールでも2005年オルガン・ガラコンサート以来の試みなんだとか。このホールは音楽家たちの新たな挑戦の場にもなっているのですね。

休憩時間は、ホール2階にあるドリンクコーナーへ。

ホットコーヒー（500円）を片手に、余韻に浸ります。

1階のショップには、音楽にまつわる可愛らしいグッズがいっぱい。

オブジェとしても存在感を発揮しそうなグランドピアノ鉛筆削り（550円）や

ピアノの鍵盤や楽譜がデザインされたオシャレな爪切り（770円）、

バッハやモーツァルト、ベートーベンの付箋（396円）など商品のバラエティも豊富です。

取材に同行した男性スタッフは、音符やト音記号を施したカフスボタン（5,000円）に一目ぼれ。即購入し、その場で身につけていました！
休憩時間を楽しんでいると、カラン、カラン、カラン……と開演を知らせる館内ベルが。実は、姉妹都市であるオーストリア・ザルツブルク市内で録音した鐘の音なのだとか。なんて細やかな演出！
さまざまな角度から“音楽”を堪能できる世界屈指のホール。ぜひ1度訪れてみてはいかがでしょう。